一輪のクルミの木から、
十二枚のヘッドボード
ある秋の日、横浜の自社工房に北米産ブラックウォールナットの原木が届きました。樹齢百二十年、幹回り 1.4 メートル、長さ 4.2 メートル。ひとつの原木から、いったい何枚のヘッドボードが取れるのだろう——。CHEUNG CHAN YAP の素材担当 川島美桜が、工場で実際に数えてみた記録です。
原木を「読む」ということ
原木は届いた瞬間から、もうひとつの時間に入り始めます。樹皮の色、節の位置、木目の流れ、芯の有無——一本の原木を断面から順に読み解いていきます。CHEUNG CHAN YAP の横浜工房では、原木が入ってくるとまず西脇が胡座をかいてしばらく眺めます。「どこに節があるか」「どのあたりが縮みそうか」「トラ目が走りそうな箇所はどこか」。それを頭の中で本に開くように読み込んでから、ようやく木取りに入ります。
四ミリピッチの挽き込み
CHEUNG CHAN YAP が主に使うのは、厚さ 0.6 ミリの突板。一枚のヘッドボードに最低でも十二枚の突板を貼り合わせます。ひとつの原木から取れる突板の枚数は、平均すると百四十〜百八十枚。つまり、原木一本で約十〜十五台分のベッドヘッドボードを賄える計算になります。ただし、節が避けられず使えない部分、両端の芯に近い不安定な部分、最初の試挽きで使うサンプルを含めると、実際に家具になるのは全体のおよそ 65% —。残りの 35% はチップとして、近隣のバイオマス発電所に届けています。
節、木目、比重
ブラックウォールナットは、他の広葉樹にくらべて比重 0.55〜0.66 と中庸で、加工しやすく、経年で少しずつ色味が深まる——という特徴があります。節は蝶結びのような「ライブエッジ」表現には使いません。真っ直ぐな木目が連続する部分だけを、ブックマッチ(本のように左右対称に貼り合わせる技法)で合わせる。これにより、ヘッドボードがどんな角度から見ても連続した木目の流れとして読めるわけです。
十二枚のヘッドボードの、十二の暮らしい
ひとつの原木が工房に届いてから、ヘッドボードとしてお引渡しするまで、約六〜七週間。その間に木材が受ける変化は、機械乾燥と天然乾燥を併用することで、含水率を 8% 前後まで落ち着かせます。横浜工房には、年間に約二十四本の原木が入ってきます。二十四本の木が、年間で二百四十〜三百六十のヘッドボードに姿を変えていく——。CHEUNG CHAN YAP のものづくりは、いつもこんな単位で動いています。
素材の裏側にある、森のはなし
原木を仕入れているのはペンシルベニアのアパラチアン山脈の FSC 認証林。森林組合は毎年 1.5% の成長率で木を増やしており、伐採量は成長量の 40% にとどめています。木材に「秋」を感じるお客様がいたら、それは約百二十年の森の物語が、寝室の端にやって来たのかもしれません。
著者 川島 美桜 / 撮影 横浜工房 / 編集 相馬 藍子 / CHEUNG CHAN YAP
素材のことを、
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CHEUNG CHAN YAP の工房には、年間を通して六回ほど「素材を知る日」を設けています。原木に触れ、削り出しを試し、突板を一枚めくる、ゆっくりとした一日です。
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